クリスマス

カチ、カチ、カチ、カチ……
時計の音だけがし静かに聞こえる、ただいま6時49分。
ミミは目覚まし時計の前でじっと待つ。
カチ、カチ、カチ、カチ……
『ピ』
パシン!
目覚ましが鳴ったと同時に止めてしまう。
「ん、うぅ……」
「…よし」
にいちゃんはまだ起きない。
そして、
「朝だよっ!」
布団へダイブ!
「グボァッ!」
勢いよく腹へののしかかり。
そして爽やかに
「おはよう、にいちゃん」
「お……おはよう…」
腹を押さえつつ、起き上がる。
「ちゃんと起きれた?」
「…あ、あれで起きなかったら超人だな……」
ミミは朝が早いので起こすよう頼んだらこんな起こし方。
「次からは、もっと優しく、頼むよ」
「ん、わかった」
腹の痛みを我慢しつつ、起き上がる。
「よし、飯だ」
「おう」
冷蔵庫。
「……あー」
「空っぽだね」
「買わないとなぁ」
あるのは卵とチーズとヨーグルトと牛乳。
「乳製品ばっかだな」
ケチャップが残ってたので今日の朝はオムレツ。
「今日の朝はオムレツにします」
「えー」
「…なんだよ」
「この前も食べた」
「今日は中にチーズを入れる」
うむ、美味しそうではないか。
卵を割ってちゃちゃちゃっとかき混ぜて焼く。
自慢じゃあないが、料理はなかなかだと思う。
『ぐぅ〜』
「はいはい、今できるからね」
「ち、違うー!私じゃないもん!」
『ぐぐぅ〜』
「じゃあ何の音?」
「………」


「ごちそうさまー」
「流しに下げといてね」
「んー」
俺はゆっくり食べる。
「にいちゃん」
「あー?」
「着替えておくよ?」
「おう、脱いだのは洗濯機な」
「わかった」


「はやくはやく」
「ちょっと待てよ」
靴紐を結ぶ。
ミミのも結ぶ。
「お金は持った?」
「もったぞ」
「で、今日は?」
「一つだけ」
「えー…」
買い物をするとき、その時の気分と財布の具合で好きなお菓子を買っている。
そして今日は一つ。
「よし、行くか」
「おー」
ミミが勢いよくドアを開けると、冷ややかな風が吹き込んでくる。
「おおぉ……」
ブルルッと身を震わせる。
「おー、雪だ」
ちらちらと白い落下物が空を舞う。
「そういえばそろそろクリスマスか」
クリスマスといえば、サンタが子供にプレゼントを配るんだよな。
ミミは知ってんのか?
「ミミ」
「んー?」
「サンタクロース知ってるか?」
「知ってるよ?」
「…そうか」
知ってたか…。
「私にもプレゼント来るかな」
結構期待してるな。
俺なんて小学校の1年生でサンタの正体を知ってしまったが故に、プレゼントが貰えなくなってしまった。
ミミは何が欲しいだろうか。
「ん〜」
「にいちゃん、何止まってんの?」
すでにミミは外にいたので鍵をかけ、一緒に歩く。
「ねぇねぇ、今日の晩御飯は?」
「ん〜、今日の買い物によるなぁ」
「明日は?」
「それも残った食材による」
明後日は?と聞いて来るが、答えは同じなので無視する。
「何で無視するのー!」
「あいて」
叩かれた。
「ところでさ、ミミはプレゼントどんなのがいいの?」
「えー?……んー」
あまり高くないといいなぁ。
「サンタの服欲しい」
「サンタの服?」
そんなのあるのか?
あったとして、そういう服って変に高くないか?
「ねぇにいちゃん」
「何だ?」
「サンタさん来てくれるかな」
「いい子にしてれば、来ると思うよ」
「いい子にしてなかったら?」
「来ないな」
「…」
「だから、いい子にするんだぞ?」
「うんっ」
これで、プレゼントが来るまでいい子のはずだ。


「にいちゃーん!!」
「うぐぉっ………」
腹の上に、どすんと飛び込む。
目を開けるまもなく落ちそうになる。
「……にいちゃん?まだ寝てるの?」
「お…起きたよ……」
「あのねにいちゃん、起きたらプレゼントあったよ!」
「良かったな…でもな、ミミ」
「ん?」
「もうちょっと優しく起こしてな?」
「わかった!」
返事はいいものだ。
「で、プレゼント来たって?」
「そう、ちゃんと来た!」
手に持ってる。
「うれしい?」
「ん!」
「そうか」
それなら良かった。
「着てもいい?」
「いいよ」
嬉しいのはわかるけど、目の前でストリップショーは止めてくれ。
「どう?」
「似合ってる、可愛いよ」
「ホント?」
「本当」
最後にサンタ帽をかぶり、玄関に向かう。
「おい、どこ行くんだ」
「お隣さん」
「迷惑掛けるなよ」
「わかった!」
ミミが出て行くと家の中は静かになる。
「お隣さんて、どんな人だったかなぁ」
隣の片方は空き地だからお隣といえば空き地じゃないほうか。
「全然交流ないな」


「ただいまー」
「………」
「…にいちゃん?」
「今何時だ?」
「あ、その、6時」
「いつも何時に帰って来いって言ってる?」
「…5時」
怒ってる。
ミミはそう思って、自然と耳も尻尾も力無く垂れ下がる。
「…えっと……」
「ミミは隣の人とは知り合いなのか?」
「うん…」
ちょっと言葉に力が入ってしまう。
「長く居るなら、そう言ってくれればいいのに。心配したんだぞ」
「……」
「今度からは、ちゃんと言うんだぞ」
「…うん」
うつむいてしまった。
「にいちゃんはな?ミミの事が心配だから、こう言ってるんだぞ?」
まだうつむいてる。
ミミのそばまで行き、頭が同じくらいの高さに来るようにしゃがむ。
「俺だって怒るのは好きじゃないんだ」
泣きそうな、悲しい顔で見上げる。
「だから怒ってるわけじゃないんだ。心配だから言ってるんだ」
「……怒って、ないの?」
「ああ、怒ってないさ」
にっこり笑ってやる。
「わかった、今度からちゃんとする」
「よし、じゃあ今から飯だ」
「……もう食べた」
「え!?どこで!?」
「姉ちゃん家で」
「隣の人の事?」
「うん、ケーキも食べた」
「なっ!?手作りか!?」
「うん、チョコレートケーキだった」
「なな、なんていいものを!」
俺も行けばよかった!


END