なんやかんやでうちに住み着くことになったピカリちゃん。
「ここがお風呂」
「結構広いね」
結局案内させられる。
そういえばお腹すいたなぁ。
晩御飯食べてないや。
「ねぇ」
「んぃ?」
「料理は得意なの?」
「まあ、自分では自信あるよ」
よし、しめた。
「じゃあ晩御飯作って」
「えぇ、食べてないの?」
「言ったじゃん、共働きだから帰って来ないんだよ」
なんだか嫌そうな顔してるなぁ…。
「……よし、僕の部屋に住むの認めるからさ」
「OK了解」
今度は一転超にこやか。
「先にお風呂駄目?」
「いいよ」
「じゃあ、待っててね〜」
「あいよー」
ソファーに座って待つことにした。


「おーい、おーーーい」
「……ん、んん?」
「あ、起きた。もう朝だよー?」
「…え、もう朝?」
「ほーら雀が鳴いてるよー」
チュンチュンに混じってカーカーも聞こえてくる。
「…もう、朝!?」
がばっ、とソファーから起き上がる。
「昨日ソファーで寝ちゃったんだ…」
「なーんか凄い気持ちよさそうだったから起こせなかったよ」
くそ、寝顔を見られた…。
もう制服着てるし。
「今何時だ?」
壁の時計を見るとまだ7時ちょっと前。
「あさごはん出来たよ」
「……え?」
そういえば、昨日から何も食べて無い胃を刺激するいい匂いが漂ってくる。
「昨日の夜作れなかったからね」
「あ…あぁ、ありがとう」
まだ眠たい体に鞭打って起き上がる。
「………おおぉ、これは…」
いつもいつも目玉焼きとウインナーしか出来ない俺にとってはご馳走……。
「これ…ピカリちゃんが作ったの?」
「そうだよ?」
「へぇ…」
テーブルに着くとその向かいにピカリも座る。
「いただきまーすっ」
「…いただきます」
めにゅー。
1.野菜サラダ。
2.ハムサンド。
3.赤い何か…。
「三つ目の奴は何ですか…?」
「え?……なんだろうね?」
なんだそれはーっ!?
「でもおいしいよ?」
得体の知れない赤い物を口に運んでる…。
「おいしいの?」
「うん、おいしい」
「……………」
と、とりあえずサンドイッチを…。
「ん、うまい」
サラダはまあ問題ないとして。
「おいしいな」
「でしょ?もうお弁当も作ったから」
「…………」
ああ、これなら居たほうがいいなぁ…。
「よし、気が済むまでここに居るといい」
「ほんと?」
「うん、勉強も教えてあげる」
「やたー!」
…僕料理に弱いな〜。
結局謎の赤い料理は食べずに制服に着替える。
「少し早めに行こうか?」
「え?どうして?」
「学校の案内も必要だろう?」
「…急にどうしたの?」
「なにが?」
「昨日の態度と全然違うじゃん」
「いや……料理作ってくれるからいいかなーと、思って……」
「それだけで?」
「それだけ」
不思議なものを見るように見るな。
「……怪しい」
怪しく無い怪しく無い。
「…もしかして、警戒心が無くなったころに寝床を襲おうとか考えて…」
「ないない」
「………」
そんな警戒心ありありな目で見ないでよ。
「こんなおいしい飯が食えるお礼だよ」
「むう、まあそういう事にしておいてあげる」
朝食もそこそこに学校の準備をする。
「ねえ、名前は?」
「は?…あぁ、まだ言ってなかったな。僕は凪」
「うん、よろしく凪」
二人して家を出る。


「失礼しまーす」
丁寧にノックし、職員室に入っていく。
座っている僕らの担任、希良先生。
「一応連れて来ました」
「おお、すまんな凪」
「いえ」
なんだかこの人は緊張する。
口調のせいかな…?
「で、こっちが転入生か?」
「はいっ、ピカリですよろしく!」
「うむ、よろしく」
軽く会釈すると微笑む。
「じゃあ、僕日直なのでこれで」
「ああ、わかった」
僕の役目はこれにてしゅ〜りょ〜。
「さて、教室に戻るかな…」
職員室は二階にあって、二年生の教室は三階にある。
一階上に行くと誰かもう来てた。
「あれ、早いね鈴音さん」
「あ、凪くんおはよう」
「おはよう…日直でも無いのに早いね」
「私いつも早いよ?」
同級生で同じクラスの鈴音さん。
僕のクラスの委員長で痩せ型中背。
ちっこくて出る所出て無いあいつとは大違い。
「そうなんだ…僕は今日日直さ」
「家から遠いのに大変ね」
「いやいや、別に嫌いじゃないよ」
他愛ない話をしながら自分の席に鞄を掛ける。
「それを言うなら日直でも無いのに毎朝早く来てる鈴音さんは凄いよ」
「誰も居ない静かな教室って、好きだから」
「………」
こちらに向かい微笑む。
ああ、だからいつも教室に残ってるのか。
そのまま世間話をしているとばらばらとクラスの生徒が登校してきた。


「起立、気を付け、礼」
「あーあー、みんな静かに」
ざわめく生徒達に先生は呼びかける。
みんなもう分かってるらしく、すぐに静かになった。
「もうみんな気づいてるのならぱっぱと終わらせてしまおう。転校生だ」
オオオオオオオオオオオォ!!
教室の男子と女子、みんなの叫び。
みんな祭りごととかちょっとしたイベントが好きなのだ。
「よし、入っていいぞ」
がらがら、と教室のドアが開く。
「……あれ?」
開いたのは教室の後ろのほうのドア。
「ま、間違えました〜!」
ピシャリとドアが閉まり、廊下で走る音。
そしてまたガラガラと少し恥ずかしそうに入ってくる。
「転入生だ、名前はピカリ。自己紹介どうぞ」
「は、はじめまして。今日からこのクラスの仲間入りしますピカリです、よろしく!」
イエーーーーーッ!
どんどんぱふぱふ。
うるさいなぁ、もう…。
「どこか空いてる席は無いか?」
「あそこの端の席が空いてます先生」
鈴音さん挙手。
「そうか、じゃあとりあえずあそこに座ってくれ」
「はい、わかりました」
てけてけ歩いていく。
「あまり休み時間に質問の砲火を浴びせていじめないように。以上」
キーンコーンカーンコーン。
ちょうどホームルーム終了。
先生が出て行く。
と同時にクラスのほぼ全員(僕と鈴音さん以外)がピカリに殺到する。
「うわっ!!うわっ!!」
あまりの数にピカリが潰されそう。
「ピカリちゃんは何処から来たの!?」
「え…えっと、未来…?」
「ピカリちゃんスリーサイズは!?」
「き……聞かないで…」
「ピカリちゃんの好きな食べものは!?」
「サンドイッチ……」
「ピカリちゃんどこに住んでるの!?」
「凪くんち」
『えええぇーーーー!?』
数十の瞳が僕を射抜く。
「ピカリちゃんと一つ屋根の下なのか!?」
「たしか凪の家ってほとんど両親が家に居ないんじゃなかったっけ?」
「ってことは家では二人っきり?」
こちらを見ながらヒソヒソ喋らないでください…。
「でも、凪くんはそんな人じゃないよね?」
「あ、ああ」
鈴音さんがフォローしてくれた。
「…そうだな、凪だもんな」
「凪くんそんなことしないもんね」
「まあ、凪ならな」
鈴音さんの一言で僕への視線が和らぐ。
「……ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
ああ、鈴音さんと仲良くしててよかったな。
先生の忠告も虚しくそのまま質問の受け答えで休み時間が終わってしまう。

放課後。
「どは〜、疲れた…」
ぱたりと机に突っ伏す。
「うちのクラス凄いだろ?」
「なんと言うか……一生涯を川の流れだとしたらこのクラスは洪水だね」
ぺたー、と頬を机にくっつける。
「今日はもう帰るの?」
「うん」
「じゃあ、さっさと帰ってゲームしますか」
「きょう宿題出たでしょ」
「そうだったぁ……大丈夫、こっちには凪と言う秘密兵器が…」
「僕に頼ってないで自分でやろうね〜」
「えぇ〜、宿題写させてぇ〜」
「………」
僕を駄目人間にする前にピカリちゃんが駄目人間になりそうだ……。


つづく